2012年12月25日火曜日

不妊治療の現実

お産の専門家が産科医で、男性が大部分という現実は、次のような出産の現状をも作り出している。まず、出産に関連してよく研究されている分野は、女性の不妊治療を目的とした生殖技術だ不妊治療ではないが、一九八六年に飯塚理八氏たちが「男女の産み分け法」を開発した時、私は医師たちの生殖技術開発競争に危惧を持つ友人だちと、「自然の力に任せなければならない分野」に人間が手を入れることの不安と、」定の倫理的歯しにめの必要性を、興奮しながら議論し合ったのをおぼえている。しかしその後、歯削めどころか、女性の身体を研究材料とした不妊治療開発競争はどんどん拡人している。

二十数年前、同氏たちによって盛んに行なわれ、テレビドラマにも登場した、AIDなど人工授精は、今ではも立不妊治療のイロハだ。その後、排卵誘発剤の研究開発による多胎妊娠、体外受精、さらにその受精卵を冷凍保存し、適宣解凍してかえし、妊娠出産に成功など、様々なことが進行している。「こんなことまで人間が闘発していいのだろうか」と危惧したとおり、どんどん女性の身体への自然破壊が進んでいる。

これを福音と考えるか、破壊と考えるかは、何を第一義と考えるかによって決まるだろう。しかし私はどのような状態の女性であれ、その女性の人生は、その女性にとってかけがえのないものであり、その入らしく人生を充実させること、それが何にも勝る大切なことだと考える。若い未婚者の「不妊」イメージ女性は、明治以後の富国強兵という国策のため、必要以上に強められた「家」の意識を、戦後もそのままひきずっている人の多い日本では、とくに苫しい立場を強いられている。ある時、若い人たちがどんな未来を描いているか聞いてみた。

男子学生では二三名中、「結婚している」と明記した者一三名、さらにそのうち「子どもがいる」と考えた者一一名。女子学生は一〇〇名だったが、同じく「結婚している」者は九二名、「子どもがいる」者はそのうち八五名にのぼっている。結果をみて驚いた。若くて「家」意識などにこだわっていないようにみえる未婚の男女学生たちが、こんなにも強く、正統な大人は既婚者でなければならないとイメージしているとは。さらに大多数が、結婚と父や母になることとを同一視し、子どものいる家庭生活を「平凡な生活」とか「子どもたちのために外国で」(以上男子学生)などと想像し、あるいは「平凡だが明るい家庭」とか「忙しいが充実した毎日」とイメージしている。

そしてこのように、彼らは子どものいる家庭生活を「明るい、充実した、当たり前」のものとみなし、子どもを中心として家庭が運営されることをほとんど疑っていないのである。若者さえこうなのだから、「家」主体の家族観を強固に身につけた義父母に囲まれた現代の不妊女性たちが、どのくらい強い苦しみを受けているか想像に難くないものと思う。

私は一〇年ほど前テレビで、不妊女性たちが苦痛のともなう不妊治療を受けながら、排卵誘発剤を投与され、その後ただひたすら排卵日の人工授精にそなえて入院している姿をみて、涙を禁じえなかった。ひどい苦痛と多額の出費、それに計り知れないほどの時間を、ただ子作りのためだけに費やす女性たち。こんな「卵をうむことだけを強要されるメンドリのような人生」になぜ女性たちが追い立てられたり、あるいは自分を追い込んでいくのだろうか。

2012年9月26日水曜日

オスカー・ワイルドの一節

現代の若者たちの会話には「エサを食べるような気持でパンを胃に流し込む」という言い方がよく登場します。確かに、何かに追われるように、エサを食うがごとく食事を摂り、夜はただ「ねるだけ」の機能しか果さない住居にもどって体力を回復する日々を体験すると、「生存している」という表現に真実味を感じます。そして、つい最近でも、「人を荷物のように押し込んで動くだけの機能しか果さない交通機関」が日本では支配的です。

しかし、その日本でも一九八〇年代後半から「文化の時代」という流行語が急浮上してきて、あらゆる財やサービスの販売や提供のなかに「文化志向型」とか「高付加価値化」とかが唱えられ始め、これに伴って「企業の文化イメージ」が強調されるようになりました。

現在、日本企業はコーポレイトーアイデンティティを主張し、新入社員の募集パンフレットの見開きにも、音楽家がニッコリ笑って語りかけています。このような状況が続きますと、各社は役員のなかに文化部長を置き、マーケティング、新規採用からフィランソロピー(社会への貢献として文化事業などへ寄付すること)に至るまで首尾一貫した文化戦略を展開し、「我が社の文化イメージ」をつくりだしてゆくことでしょう。今では「企業文化」という用語さえ、ごく普通に人々の話題に上るようになりました。

そして、また、ワイルドの言う生活という言葉が、企業の「文化志向」に対応する形をとりながら、雑誌や商品や住宅サービスの名称を通じて急速に普及していったのです。ライフには生命という意味と生活という意味がありますが、この言葉のもつイメージはワイルドが「生存している人」とは区別していた「生活している人」をクローズーアップせずにはおきませんでした。

現代の「生活している人」とは、より多くの金銭を獲得するために単に生存しているだけではなくて「ライフ、つまり、いのちとくらしを充実させようとしている人」すなわち「いきがいを求める人」としての「人間の顔」を連想させます。そうすると企業も消費者も政府や自治体も「モノやカネ」よりも「人間のココロ」に触れるような生産や消費や行政を考えざるを得なくなってきました。文化経済、文化財政、文化政策などに大きな関心が寄せられたのも当然ではないでしょうか。

2012年8月23日木曜日

工作員逮捕と中朝関係悪化

一九九九年四月、北京に駐在する北朝鮮の大物工作員「リー・チョルス」が家族と共に亡命した。北朝鮮の指導部には、なぜ彼が亡命を決断したのか理解できなかった。金正日総書記が、最も信頼していた工作員の一人であった。多くの秘密を知る人物である。

この大物工作員の行方は、いまも判明していない。北朝鮮当局は一時、逃亡直前に彼が米国大使館と携帯電話で連絡を取っていたことから、米国に亡命したとも考えた。

ところが北朝鮮は、最近になって中国が「リー・チョルス」を保護していると確信するようになった。一九九九年秋頃から中国に駐在する北朝鮮の幹部級工作員およそ二〇人が、中国の公安当局に次々と逮捕されたのだ。長い中朝の関係では、お互いに工作員を追放することはあっても、逮捕することはなかった。

逃亡した「リー・チョルス」を中国が保護し、その供述から北朝鮮の工作員を逮捕しているのは間違いなかった。ところが、中国は北朝鮮の「捜索と身柄引き渡し」要請に応じないどころか、「中国としても発見できないでいる」と答えるばかりであった。

中国政府当局者によると、二〇〇〇年三月五日に金正日総書記が平壌の中国大使館を突然訪問した。これは、金正日総書記がこうした中国側の態度に怒ったための行動であったという。金正日総書記は中国大使に「このままでは、中朝の関係は普通の国の関係になってしまう。古い友誼と友好関係を壊すつもりなら、北朝鮮にも考えがある」と伝えたという。この中国大使館訪問に、金正日総書記は軍の首脳全員を伴った。これは、軍事的な手段を使っても逮捕された工作員を救出するという意思表示になる。この結果、中国側は逮捕した工作員全員を釈放したという。

この工作員逮捕が、金正日総書記に大きな衝撃を与えたのは間違いない。北朝鮮が強く求めている逃亡工作員を引き渡さないばかりか、新たに工作員を逮捕したのである。中国は信頼できないばかりか、やはり北朝鮮を見捨てるのではないかとの思いが募るのは当然であった。

金正日総書記はおよそ七時間中国大使館に滞在し、中国首脳からの回答を待った。中国側は「中朝の友好に変わりはない」とのメッセージを伝え、およそ二〇人の幹部級工作員を釈放した。だが、中国側は「中朝同盟」の言葉は避けたという。

この中朝関係の悪化が、金正日総書記に南北首脳会談を決意させたと思われる。これまでの南北対話のセオリーから判断すると、こうした仮説が導きだせる。北朝鮮は、自らが国際的に厳しい立場に立だされている事実を韓国には覚られないようにしながら、首脳会談を実現したのである。

中朝関係の悪化を物語るエピソードがある。南北首脳会談のための韓国と北朝鮮の秘密交渉は、北京と上海で行われた。ところが、北朝鮮は公式発表まで中国に首脳会談の合意を伝えなかったのである。この事実は、中国外務省の高官が確認した。日本の外務省も、中国側からこうした事実を知らされたという。中国の関係者によると、中国が首脳会談を公式に知らされたのは韓国からの通告によってであった。

北朝鮮を南北対話に向かわせる共通要素

 ①一九七二年の初の南北対話では「南北共同宣言」で合意した。
 ②一九八五年の南北対話では、離散家族の再会が実現した。
 ③一九九〇年には南北首相会談が行われ、「南北基本合意書」に署名した。

この三回の南北対話に共通するセオリーは、中ソとの関係が悪化したり、国際的孤立に追い込まれると、その打開策として対話に応じていることである。一九七二年の場合には、アメリカのニクソン大統領が中国を訪問した。これは、向盟国中国の裏切りであった。それまでは、中国は北朝鮮と共に「米帝国主義」を「敵」として激しく非難していた。ソ連はすでにアメリカとの「平和共存」を推進しており、北朝鮮としては直ちにソ連に傾斜するわけにもいかなかった。この結果、南北対話に応じたのである。

一九八五年の南北対話は、孤立からの脱出を狙ったものであった。当時北朝鮮は、一九八三年にビルマ訪問中の全斗煥大統領の暗殺を狙ったラングーン爆弾テロ事件を起こし、国際社会から制裁を受けていた。特に中国の怒りは激しく、中朝関係は最悪の状態に陥ったのである。こうした事態を打開するために、南北対話に応じたのだった。韓国が対話に応じれば、国際社会の態度も変化せざるをえないからだ。

一九九〇年の南北首相会談の際は、東欧社会主義国が崩壊しソ連が韓国との国交正常化に踏み切り、北朝鮮にも崩壊の波が押し寄せるのではないかと憂慮された。また、中国は韓国との関係改善を進め、韓国企業が中国に進出するようになっていた。この結果、中朝関係もしだいに悪化していた。中国が韓国との国交正常化に踏み切るのは、時間の問題と思われた。

こうしてみると、北朝鮮を南北対話に向かわせる共通要素は、中国との関係悪化である。それでは、二〇〇〇年六月の南北首脳会談の前に中朝関係は悪化していたのか。実は、当時の中朝関係は最悪の状態にあった。金正日総書記が中国の指導者に「中朝関係を普通の国の関係にするつもりか」と問い合わせのメッセージを送るほどに、冷えていた。

何があったのか。大物工作員の亡命事件と、幹部級の工作員が多数逮捕される事件が起きていたのだった。

なぜ南北対話が実現したか

金大中大統領と金正日総書記との首脳会談が実現したといっても、南北統一がすぐにも実現するわけではない。金大中大統領も言及しているように、統一にはなお二〇年から三〇年の時間が必要である。

金大中大統領は一九九八年の就任以来、南北首脳会談を何度となく呼びかけてきた。北朝鮮は、この呼びかけに応じないばかりか、金大中大統領の「太陽政策」を激しく非難してきた。労働党の機関紙・労働新聞は、「傀儡執権者がわめく『対北政策』とは、すなわち『対北包容政策』であり、これがわが方(北朝鮮)を改革・開放へ誘導してどうにかしようという校猪な手法だということは周知の事実だ」(一九九九年一二月二八日)と、激しく非難した。北朝鮮は、二〇〇〇年の国連総会で韓国の外相が南北首脳会談の実現を「太陽政策の成果」と演説したことを激しく非難した。

これは、北朝鮮が太陽政策を北朝鮮を崩壊させる政策であると理解しており、太陽政策に応じて南北首脳会談が実現したわけではない、と主張していることになる。あくまでも、金正日総書記の指導と決断で南北首脳会談が実現したという立場である。そうしてみると、南北朝鮮の指導者が首脳会談を実現した理由と動機は、まったく異なることになる。

太陽政策とは何であったのか。金大中大統領は就任演説で次の方針を明らかにした。

●北朝鮮のいかなる武力挑発も容赦はしない。
●北朝鮮を崩壊させたり吸収統一するようなことはしない。
●南北間の和解と協力を可能な分野から積極的に推進していく。
この基本方針に加え、以下の新たな政策も次々に打ち出した。
①民間の交流と協力は原則として自由にする。許可制から届け出制に。
②政府間交渉は相互主義に。韓国は一方的に譲歩しない。
③南北基本合意書(一九九一年)の復活。
④南北経済共同体提案(二〇〇〇年一月)。
⑤ベルリン宣言(二〇〇〇年三月)。

この八つの政策をまとめて「太陽政策」と呼ばれた。ただ、南北首脳会談の合意では「相互主義」と「南北基本合意書復活」の政策は排除された。結局は、韓国が多くを譲歩し北朝鮮はほとんど譲歩していないというのが、偽らざる現実である。

首脳会談の実現が、太陽政策の成果でないとするなら、どうして実現にこぎつけたのか。その謎を解くカギはこれまで述べてきた「南北対話のセオリー」である。南北対話は、過去に三回実現している。

2012年7月2日月曜日

一枚ならばユナイテッド、三枚ならば?

利用者からみたマイレージサービスは、①マイルを獲得しやすい、②提携社が多い、③目標ハードルが高くない、④有効期限が長い、⑤無料チケットで利用できる路線が豊富であることが重要。

これらの項目をチェックすると、全日空とも提携しているユナイテッドの会員カードがもっとも使いやすい。しかし、ユナイテッドは最近この風評を利用して、格安運賃を高めに設定しているフシもあるので、チケット購入の際には要注意だ。

現在の設定条件からすると、米国系エアラインの会員が一番トクだ。どうせ入会金もないのだから、複数枚つくるつもりであるならば、二枚目は、有効期限がなく日本関係の路線の多いノースウェスト(JAS、KLM、コンチネンタル、アリタリアと提携)、三枚目は、有効期限はあるもののアメリカン、ブリティッシュ・エアウェイズ、カンタスなどワンワールド各社で使える日航という組み合わせを用意すれば、日本関係の路線はほとんどカバーできる。

裏ワザでためられる

旅慣れた利用者の中には、マイルを早く獲得するために多少の無理をして無料チケットを楽しんでいる人もいる。

友人のN氏はヨーロッパへの往復を米国経由で行っている。日本からパリまで直行便で飛ぶと6206マイルにしかならないので、一回往復しても特典はつかないが、シカゴで乗り継ぐと東京-シカゴ6268、シカゴーパリ4153で合計1万0439マイル、往復で2万マイルを超えて東南アジアへの無料航空券を獲得できる。

しかも、運賃は直行とほとんど変わらないか、ユナイテッドの格安券ではむしろ安い場合もある(正規のエコノミークラス運賃ならば同額)。

ただ、所要時間が二四上一五時間と倍ほどかかるので、忍耐強さと体力がいる。ちなみに、ノースウエストはデトロイトで、ユナイテッドはシカゴまたはサンフランシスコで乗り継げば、2-3時間の待ち時間でパリまたはロンドン行きに接続する。

マイレージサービスは、「結果として目標に到達する」という使い方が自然である。割高の運賃を購入してまでマイルをためるのは本末転倒だ。

マイレージサービスを含めて、顧客優遇プログラム(FFP)は双方が履行義務を負う契約ではなく、エアラインが一方的に実行を宣言した販売促進策である。エアラインが社会的信用の失墜を恐れなければ、交換比率を大幅に切り上げたり、一年後の打ち切りもあり得る。したがって、無理をせずに、余禄を楽しむゆとりが大切だ。

ためるのが楽なのは米国系

マイレージの加算距離は、一般的には、正規エコノミークラス運賃を100%とし、ビジネスクラスを二五%増しとするが、なかにはエールフランスやルフトハンザ、アリタリアのように100%増しとするエアラインもある。

各社によって対応が異なるのは割引チケットで、日系が個人割引は70%、格安、パックツアーは50%しかカウントしないのに対して、欧米系やアジア主要社は100%、豪州は70%を認める。

重要なのは提携社の多さ。フィリピン航空のように路線が限られているうえに他社との提携がほとんどない会社や、東南アジアに乗り入れていないTWAは日本人に意味がない。


一方、アライアンス(二八九ページ参照)の加盟社は提携し、相互に特典の交換を認め合っているので、一社の会員カードをもっていれば加盟社の搭乗マイレージをすべて一枚のカードにつけることができる。

JASは「ウイングス」と、日航は「ワンワールド」主要社などと提携している。また、ホテル、ショッピングなどの利用店が含まれていれば、飛行機に乗らなくとも得点がたまる。

そして、最近差がついているのが対象期限だ。日系、欧州系は原則として翌々年(JASは三年後)の年末で消滅していくのだが、米国系(アメリカンを除く)、韓国系は無期限になっている。

ただし、完全に無期限(コンチネンタル)、三年以内にマイルの加算が条件(ユナイテッド、ノースウェスト、デルタ)とに分かれる。

さらに、デルタは自社の航空利用が条件だが、ユナイテッド、ノースウェストは提携社やショッピングによるポイントでもよいので、クリアは楽だ。逆にためにくいのはヴァージン(格安、ツアーは対象外)とシンガポール(エコノミーでも50%)だ。

新規開設路線や競争の激しい路線には、割り増しの得点を設定することもある。使いやすいりはユナイテッド、JAS

せっかく一生懸命ためても、無料航空券の設定目標が高ければ使いにくい。二万マイルでソウル、香港、中国などの近距離のアジア、四万でハワイ、五万1六万で米本土というのが標準だが、ユナイテッドならばロス往復二回でバンコクまでの無料チケットをもらえる。

日系は五万五〇〇〇マイルで欧州往復エコノミークラスの無料航空券がもらえるのに対し、ルフトハンザ、スイスなどはコー万マイルも必要だ。

JASは一万で東京-大阪、一・五万でソウルと、他社に比べて低い土に、無料航空券は第三者にも譲渡可能(一般的には二親等以内に限る)。そしてユニークなのはタイが始めた「不足分の現金買い取り」だ。

五〇ドルで二五〇〇マイル、最大二万マイルまでを買い足せる。「もうちょっとで」という場合には便利なのだが、タイはもともとの設定が高すぎる(バンコク往復五万マイル)。

そして重要なのは無料で使える路線が豊富にあること。デルタでためても東南アジアには路線がほとんどない。米本土往復は最低六万マイルだし、提携の大韓航空を使っての香港でも三万マイルが必要だ。

その点、ノースウェストとユナイテッドは長距離の米国本土路線と東南アジアに豊富な路線をもつ。特典の景品には、バッグ、食器など品物を用意しているエアラインもある。

マイレージの賢い使い方

夫婦二人で世界一周を夢みてパンーアメリカン航空の搭乗マイレージをせっせとためていたが、あと一歩というところでパンナムが倒産し、長年の夢は露と消えてしまったという人がいる。

マイレージサービスは、アメリカン航空(AA)が一九八〇年代初めにスタートさせ、パンナムが取り入れて世界中に広がったといわれる。乗客の搭乗実績距離(マイレージ)に応じて得点がたまり、得点によって無料航空券や利用クラスのアップグレード(ひとクラス上の航空券を発券する)券などをもらえる仕組みだ。利用者が自分の都合で好みに合わせて獲得した得点を使えることから、好評を得ている。

一般的なプログラムでは、搭乗実績二万マイル(東京-ロス往復二回程度の合計)で東南アジアの都市、五万―六万マイルでアメリカの都市、五・五万―七万マイルでヨーロッパの都市への無料往復航空券が于に入る。ただし、各便とも利用可能な席数が制限されており、繁忙期に希望のフライトを押さえるのは簡単ではない。

日系エアラインも九三年から本格的に導入した。当初はパックツアーや格安航空券を対象外としたため不満が大きかったが、最近になって欧米系と同様に五〇%だけ加算することにした。

エアラインの競争が激しいと条件は利用者にますます有利になるが、アメリカン航空が交換率を切り上げて、利用者が無料チケットを手にするハードルを高くし、行使しにくくした例もある。利用者の関心は、どこのエアラインのプログラムに入会するのが一番トクか、にある。

困ったときには?

手荷物の紛失

エアラインがチェックインのときにくれる書類で重要なのが「バゲージ・クレーム・タグ」の半券だ。手荷物の引き換え証となる。到着空港で預けた荷物が出てこなかった場合には、この半券をもって「ロスト&ファクンド」ガウンクーへ行って探してもらう。

乗り継ぎ空港での日本語対応

日本人の語学べ夕は世界でも有名だが、外国社の中には乗り継ぎ空港に日本人社員を配置しているエアラインもある(エールフランス、SAS、KLMなど)。

また、係員はいなくとも、日本語専用の案内電話を用意しているのはルフトハンザ(欧州コーカ国で朝八時から夜九時まで対応)、SAS(欧州一三力国でフリーダイヤル)、エールフランスは空港、パリ、デュッセルドルフからの通話が可能。ヴァージンはロンドンにサービスデスクを設置している。

国際線の付帯サービス

割引運賃でも利用できるサービス

①近くの都市への無料バス・・・他社との競争の関係上、エアラインが近くの町へ無料バスを運行している場合がある。

日航だと、ニューヨーク→ニュージャージー、フランクフルト→デュッセルドルフ、アムステルダム→ブリュッセル、北京→天津。全日空(普通運賃)では、フランクフルト→デュッセルドルフ、北京→天津、青島→市内。ハイヤーでロンドン空港から四〇キロ以内、北京空港から五〇キロ以内。

②事前の座席指定・・・窓側、通路側、前部、トイレに近い場所など希望の座席を確実に確保できる。もちろん、希望の座席が先にとられていればだめだが、長いフライトを快適に過ごすには大切なことだ。

格安航空券でも利用可能なサービス

提携ホテルが割引で利用できる。多くのエアラインで実施していて、高級ホテルが多い。

個人正規運賃で利用できるサービス

ビジネス、ファーストクラスの正規運賃で購入した場合(一部エコノミークラスにも適用)に利用できるサービス。

①無料の手荷物引き取りサービス・・・スーツケースなど重い手荷物を自宅や会社から出発空港まで無料で運んでくれる。日航、全日空がほとんどの国際線で実施している。

②空港ラウンジ・・・便の出発までのひとときを過ごせるVIPラウンジ。アルコールを含む飲み物、軽食、新聞・雑誌の用意かおる。ほとんどのエアラインが実施。

③コート類の無料預かり・・・成田、関西空港でコート類を無料で預かってくれる。全日空で実施。

④携帯電話のレンタルサービス・・・多くのエアラインで実施している。ただし通話料は利用者負担。

⑤空港とのアクセス交通無料券・・・空港と市内とを結ぶ鉄道やバスのアクセス交通の無料券を支給。ヴァージン・アトランティックなど。

国際線の乗り継ぎで羽田-成田空港、伊丹-関西空港を利用する場合のリムジンバスの無料チケット(日航、全日空)その他、新路線開設キャンペーンや路線のテコ入れのためにハイヤーを回してくれる場合もある。

便利なチェックインサービス

グループはまとめてチェックイン

家族やグループはまとめて搭乗手続きをしないとソンする場合がある。座席がバラバラになるだけでなく、無料手荷物の計量をまとめて行うと、許容量はグループ全体で判断されるため、一人、二人の荷物が無料の範囲をオーバーしていても超過料金を取られることがなくなる。

特定便割引でも繰り上げは可能

便の変更はできない原則になっている特定便割引運賃だが、当日に事前のフライトに十分な空席がある場合に限り、空港で搭乗便の繰り上げができる(事前に電話で予約状況を確認しておくと確実)。

たとえば三時発フライトの特定便割引航空券をもっていて、一時発の便に当日空席があれば、追加料金なしで変更がきく。エアラインとしては、販売チャンスを増やしておいた方が販売増につながる可能性があるからだ。

したがって、遅めのフライトを特定便割引運賃で用意しておいて、早めに予定が終われば便を繰り上げることができるが、逆はできない。

幼児を連れているときのサービス

幼い子供を連れている乗客にはさまざまな便宜がはがられている。航空券を購入するときにその旨を伝え、チェックイン時に確認すれば、幼児用の簡易ベッドの利用できる席を用意してくれるし、搭乗のときには一般乗客に先立って搭乗させてくれる。また、機内では、ミルクの保温、紙オムツや絵本、おもちゃなどの用意がある。

バリアフリーへの対応

近年、身体の不自由な乗客への航空会社の対応はかなり整ってきた。介護者への割引運賃の適用や、機器の持ち込みなどを事前に相談する窓口を設けているエアラインもある。

旅行代理店を活用しよう

航空にはさまざまな規則や特例があって、わかりにくい。過去の歴史や国の利害関係などがぶつかりあって妥協や調整がはかられたルールも数多くある。「遠くの路線は近距離よりも高い」という一般常識さえも通用しない。満足できる旅行をするために、エアラインや旅行代理店を積極的に活用しよう。

利用しないとソンするサービス

他社への振り替え

世界の民間航空業界は決済機能が発達しているので、A社の航空券で一部B社に搭乗する場合や、旅行の行程で数社の航空券を組み込んで使用する場合も、A社に代表して発券してもらえる。

国際線はIATAに清算所があり、世界の約三〇〇社の相互連帯輸送契約に参加している。したがって、格安券や特定の割引航空券を除く各社に共通な航空券をもっていれば、乗客の都合で他社に振り替えることもできるので、A社のフライトが大幅に遅れる場合には、他社に振り替えて利用することもできる。

また、日本の国内線の場合にも大手三グループの各社は相互連帯輸送契約に参加しているので、他社への振り替えがきく。出張で仕事の都合で遅くなった場合や、予定よりも大幅に早くなった場合には、他社フライトへ変更すると時間をむだにしないで済む。

特に、東京-大阪、東京―広島線のように、三社のフライトが措抗して飛んでいる路線では、有効だ。ただし、国内線も普通運賃、往復割引、回数券など、運賃が共通なものに限られており、特定便割引などでは使用できない。

海外乗り継ぎ割引運賃

国際線への乗り継ぎのために国内線を利用する乗客が利用できる割引運賃。たとえば、鹿児島から関西空港乗り継ぎでロサンゼルスへ向かう場合、鹿児島-大阪間の運賃が五割引となる。正規運賃で同じ航空会社の利用が前提なので、地方で格安券を買う場合には、国内線の乗り継ぎ運賃を含めてトータルで比較しないと、ソンをする。

スルー・チェックイン

乗り継ぎ便をまとめて「通しでチェックイン」すること。たとえば旭川から羽田を経由して宮崎まで飛ぶ場合に、旭川空港で旭川-羽田のぶんだけの搭乗手続きをすると、羽田でもう一度チェックインをやり直さなければならないが、最終目的地の宮崎までのスルー・チェックインをすると、航空会社にその旨が伝わり、荷物も空港の人が積み替えてくれる。

羽田で手荷物を引き取って汗をかきながらロビーを走り回ることなく、降りたゲートからそのまま宮崎便のゲートへ向かえる。

スルー・チェックインが効果を発揮するのは搭乗便が遅れたときで、航空会社は接続客を検索し、係員が速やかに誘導したり、少々の遅れは待っていてくれる。

国際線ではこのメリッ卜は大きい。乗り継ぎ空港で出入国手続きをする必要がなくなるので、ゆったりとトランジット・ラウンジで過ごすか、免税店でショッピングを楽しんでいればよい。ただし、スルー・チェックインは、同じエアラインか、提携している会社でないと取り扱ってくれない。

2012年6月21日木曜日

全体が見えていなければならない

「児童・思春期の適応障害行動(問題行動)ケースで、教師や保護者とのケースに対するイメージ合わせのむずかしさを感じたりします。かかわる者のクライエント像が病んでいたり、決めつけゆえのやりにくさや危険におちいらないためには、どうしたらいいでしょうか。

生活上の不適応行動や自己表現のあがきなどに対し、枠づくりの提供や大局観のある姿勢でのかかわりを大切にしながらイメージ合わせをしていきたいのですが」

金城さんの二つ目の質問は、前述の着地点の問題と似ています。学校へ行かない子に対して、教師は、「すぐ学校に来てくれたらいいのに」というイメージをもっている。ところが母親は、「うちの子はもうちょっと元気にものを言ったらいいのに」というイメージをもっている。

一方、心理療法家は、「これは父性の問題で、この家にはどのように父性を取りいれていったらいいだろうか」などとイメージしている。これでは、みんなバラバラです。どれも間違ってはいないけれど、イメージ合わせが狂ってしまっています。

心理療法家はこの家庭の父性をじっくりと育てようと思っているのに、学校の教師にしたら、「カウンセラーに会ったらますます学校へ来なくなって、よけい悪くなったじやないか」と言うし、お母さんはまた違うことを言う。心理療法家はそういうこともすべて読んだ上で、全体として見ていかなければなりませんから、非常にむずかしい立場です。

2012年5月16日水曜日

フリーターは自分をすり減らしていきます。

集められたもの同士もお互いに知り合おうとしないのですから。フリー労働者の中でも最も不安定なタイプはこういう労働で、自分をすり減らしていきます。

このルポのラストは、次のように結ばれています。

「もし、大多数の”働く人たち”がそんな風に明日の仕事や来週の仕事、そして来月や来年の仕事を探し、働くようになったら・・・と取材の過程で僕は何度も考えた。そうした労働構造の中では自ずと人と人との繋がりは断ち切られていくに違いない。

そして、一方では”自己責任”や”技術・技能”といった言葉がもてはやされながら、多くの人たちが効率化のために人知れず切り捨てられていくことになるだろう」と。

日経連の新時代の日本的経営ごを検討しましたが、企業は働く人たちをタイプ分けして、その会社で長期に働く少数の社員と、多くの臨時労働者に二極分化しようとしています。その一つの極がここに示されているわけです。

「顔のない仕事」の実態

フリーター時代は寂しくしくつらい日々だった。何しろ、仕事を待つあいだだけ他の手足を入れることができない。作業内容、集合場所、作業現場の全容が前日にならないとわからない。残業にいたっては行ってみないと判断できないのも、息苦しい理由のひとつだった。

こうして稲泉さんが手に入れた仕事は、夕方から23時30分まで、お台場のオフィスビルで会議室や研修室の配置替えをすることでした。20代と見られる男性6人が集められますが、皆初対面で、お互いに名前も知らない。

クライアント会社員の指示で、椅子や机を運んで、片付けたり並べたり、黙々と身体を動かす。技術を必要としない簡単な仕事だし、職場の人間関係に気を使う必要もない、ある意味で「気楽な仕事」です。

けれども、そこでは職場の仲間も生まれません。一日の仕事が終わったあとの描写が象徴的です。「荷物を置いた部屋へ戻ると、全員が黙ったまま、携帯電話を取り出してガチャガチャやり始めた」。

リーダーが「お疲れ様でした」と声をかけて、そのまま流れ解散になって、「他のスタッフと帰り道が一緒になるのをさけ、みな溶けるように散らばって駅へと向かっていった」。

一日の仕事をした同世代同士でも何も話さないし、むしろ一緒になるのを避けて帰る、というさびしい姿が浮かんできます。 稲泉さんはこれを「顔のない仕事」と呼んだわけです。「いつでも好きな時に仕事ができる」「即決」などのうたい文句の裏側には、こういった実態がある。