2015年10月5日月曜日

アメリカ経済の「好調ぶり」

一九九八年四月、アメリカの株価はついに九〇〇〇ドルを超えた。九八年第1四半期のGDP成長率(年換算)は四・二%を記録し、失業率は四・三%(九八年四月)という「驚くべき低水準」(『アジアーウォールーストリートージャーナル』5月11日付)となった(九〇年代における失業率のピークは九二年の七・五%)。物価の安定をけじめ、アメリカ経済の好調ぶりを伝えるデータは数多く、それらを根拠に、アメリカ経済は景気循環と無縁という強気の「ニュー・エコノミー」論が台頭している。しかしながら、一方で、バブル崩壊を危ぶむ不安も、拭いがたく囁かれている。

考えてみれば、アメリカ経済の経常収支赤字(九六年一三四九億ドル、九七年一五五二億ドルという大赤字)は累積し、世界最大の債務国という性格は依然として続いている。にもかかわらず、基軸通貨国という「特権」によって、アメリカは、アジアの債務国が強いられる調整策から免れ、景気拡大を謳歌している。

その上うなアメリカ経済とは対照的に、デフレ不況の性格を強める日本は、内需不足と外需依存に起因する経常黒字を、アメリカに資本還流させ、アメリカの貯蓄不足を支える立場を余儀なくされ続けている。二一○○兆円を超す膨大な日本人の貯蓄が、アメリカの低貯蓄率だけではまかなえないアメリカの巨大な資金需要に惹きつけられている。先に述べたように、九七年に高まった日本の信用不安によって、ますます日本の資金はアメリカの赤字を支える傾向を強めている。

世界最大の債権国(日本)が不況に呻吟し、世界最大の債務国(アメリカ)が加熱気味の好況を謳歌するという奇妙な関係はこれからも続くのだろうか。しかも、不況で過剰気味の日本資金が、好景気を謳歌するアメリカの金融資産を買い支えている。その中心にアメリカの好調な株価があるわけだが、ダウが九〇〇〇ドルを突破した辺りから、「不安説」も繰り返されている。市場心理として、加熱感が不安を加速させれば、未曾有の暴落が襲ってくる懸念も否定できない。この不安は的中し、九八年八月末には史上第二位の下げ幅を記録した。

今後の行方を占う一つの鍵は、株価高騰を支えてきたミューチュアルーファンド(株式型、債券中心型、それに短期金融商品型の三種を主とする投資信託)の帰趨にかかっていると言っても過言ではない。換言すれば、アメリカ社会におけるミューチュアルーファンドの中核的担い手である中産階層の貯蓄・消費事情に依存することになる。そしてそれは、後述のごとく、つきつめていけば、アメリカレードリームの浮沈如何と大きく関わってくることになるのである。