2013年7月4日木曜日

高齢富裕層から若者への所得移転

つまり我々は日本を見限って脱出すべきなのではない。日本のこの状況に耐えて、対応する方策を見出して、遅れて人口成熟する中国やインドに応用していくべきなのです。アジアに低価格大量生産品を売り続けるのではなく、日本で売れる商品を生み出し、日本で儲けられる企業を育てることで、高齢化するアジアに将来を示す。これが日本企業の使命であり、大いなる可能性なのです。日本経済を蝕む、生産年齢人口減少に伴う内需の縮小。処方簾として挙げられがちな、生産性を上げろ、経済成長率を上げろ、公共工事を景気対策として増やせ、インフレ誘導をしろ、エコ対応の技術開発でモノづくりのトップランナーとしての立場を守れとかいった話には実効性が欠けることをお示しして参りました。

代わりに①生産年齢人口が減るペースを少しでも弱める、②生産年齢人口に該当する世代の個人所得の総額を維持し増やす、③個人消費の総額を維持し増やす、の三つの目標を挙げましたが、具体的には誰が何をするべきなのでしょうか。第一は高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進、第二が女性就労の促進と女性経営者の増加、第三に訪日外国人観光客・短期定住客の増加です。いずれも経済問題のジャンルでは話題になることが少ない、たまに言及されても「経済成長率」などに比べればほんの脇役扱いの事柄ばかりですが、しかし実際には、これら三つには日本経済再生に向け真っ先に取り組むべき意義があります。まず、第一のポイントを解説します。

若い世代の所得を頭数の減少に応じて上げる「所得四倍増政策」仮に日本経済は成熟仕切っていて、貯蓄ももうなかなか増えていかないとしましょう。しかし所得を得、貯金を持っているのが高齢富裕層ではなく若い世代中心であれば、日本人の個人消費の総額は今よりも増えます。消費性向は年代によって大きく違い、子育て中の世代が最も高いということが統計上も我々の実感からも明らかだからです。さらには子供を持つ余裕がない若い世代の所得をもう少し増やすことが、長期的には出生者数増加↓生産年齢人口減少ペースの緩和(減少を維持や増加にまで持っていくのが不可能であることはすでに申し上げました)につながります。

つまり若い世代への所得移転を積極的に促進することは、三つの目標に直接貢献するのです。このことに気づいたのは講演中でした。先はどの「人口の波」のグラフを見せて、「二〇四〇年の生産年齢人口は○五年に比べて三割減だ」と解説していたときに、ある若手官僚から目からウロコの意見をいただいたのです。「生産年齢人口が三割減になるなら、彼らの一人当たり所得を一・四倍に増やせばいいじゃないか」と。確かに〇・七×一・四=〇・九八でして、それができれば日本の現役世代の内需はほとんど縮小しない計算です。

そんな無理な、とおっしゃるかもしれませんが、そもそも人口が激増していた高度成長期に「一〇年で国民一人当たり所得の倍増」が可能だったのですから、生産年齢人口減少の今後に「三五年間で生産年齢人口一人当たり所得一・四倍増」が不可能とは言えないでしょう。そもそも日本の個人所得はまだまだ世界最高水準とはいえません。たとえばスイスは物価も所得水準も日本よりずっと高いですが、日本から貿易収支でも金融収支でも観光収支でも、すべての分野で黒字を挙げています。若い世代とは誰か。生産年齢人口の中でも、子育てをしている(可能性のある)二〇-四〇代前半を特に念頭に置きます。もちろん男性も女性も含みます。どこから移転するのか。高齢者のうち、亡くなる際に多くの使い残しが見込まれる人たちです。