2014年9月4日木曜日

一種の類似会社比準方式

現在の条件を並べてその中から比較するのではなく、将来のポテンシャル、将来にわたってキャツシューフローを引き出す力で比較する株式を評価する時のこの考え方は、われわれ自身が就職先を決める時にも「自然と」使っている考え方ではないでしょうか。

ところで、DCF法の欠陥は、先ほど説明しましたように、理論的には正しくとも、企業が将来生み出すキャツシューフローを予想することが難しいという現実面にあります。これから二千四年後くらいまでの収益はおおよそ予想できるでしょう。しかしながら一〇年後のキャツシューフローを予想するとなると、至難の業になってきます。

そこである年限以降については、その時点での企業価値を別の方法で予測するという折衷的な方法が取られることが、現実には多くあります。具体的にはたとえば五年後の企業価値を、同業他社の売上局や収益と比較して、一定の数値を掛けて算出するやり方です。仮に、同業他社の企業価値が売上局の五倍に評価されるのであれば、評価を行なおうとしている会社の五年後の価値も五年後に予想される売上局の一・五倍とするものです。

これはマルチプル方式と呼ばれ、一種の類似会社比準方式による株価算定法をDCF法の中に組み入れる方式です。マルチプル方式は、日本がバブルを謳歌していた八〇年代後半から九〇年代初頭にかけて、高い株価を正当化するために使われた方式です。一九九九年のインターネットバブルの頃には米国でも、「会社が持つソフトウェア技術者一人当たりいくらと置いて、ネット会社の価値を算定する」といったようなことが行なわれていました。

DCFの年数を短く設定しマルチプル主体で評価しますと、思わぬ間違いを犯してしまいます。特に、同業他社の評価が正しく行なわれていない場合、マルチプルのやり方では、同じように間違ってしまうという欠陥を抱えています。