2015年5月9日土曜日

バブル期の資産投機処理

二九年の大暴落時における米国の経験を参考にすれば、なぜ九二年に入り株価が二万円を下回っ恕ころから金融システムの安定性に対する懸念が出てきたか、を考える上で示唆的である。おそらくある一定の限界レベルを超えて株価が下落すると、それは単に株価の下落にとどまらなくなり、次のより重大な事態を惹起させることになるためであると想定される。株価が大暴騰をみた後、短期間で六〇%を上回る大暴落をみた場合に、それに付随するデフレ的インパクトに対して、金融システムが耐え切れなくなるのである。

具体的にいえば、株価のいき過ぎた大暴落の背後で、債務デフレ現象が発生してきたことが、金融システムが不安定傾向をみせてくる基本的背景である。極端なことをいえば、株価がいかほどに下落したとしても、債務デフレ現象さえ発生しなげれば、金融不安などは起こりえないのである。だが、九〇年初めから始まった今回のバブル崩壊は株式市場だけにとどまらず、不動産市場や他の資産市場をも巻き込んだ全面的な暴落となった。また、バブル期の資産投機は銀行やノンバンクを通じた借入金でファイナンスされたのであった。このことは、いったん。ハブルが破裂すると、債務デフレ現象を生じさせずには済まなくなる可能性がきわめて高いことを意味する。

この現象は次の三点を特色としている。まず第一は、資産価値の大幅下落に付随する収益率の低下を反映して、借入金の元本返済が困難化するのみならず、利払いも正常に実行することが困難となる投機家が同時多発的となる。こうなると、借り手は一段と借入を増加しなければ、債務のサービスができなくなる。貸し手の金融機関はこうした状況に対して、いつまでも貸出を増加し続けることが許容されなくなる。

第二は、バブルの崩壊で投機家の資産価値が急低下する一方、債務はまったく目減りしないことである。バブル期には資産と負債の両サイドがバランスをとって同時的に拡大する。しかし、資産価値が急低下するときは、負債サイドは減価しないという非対称性、が生じる。そして、資産価値が一段と低下し、ついには資産サイドの時価総額が負債額を下回ることになる。このとき、この負債超過分をその投機家の資本金で補填しえなくなると、実質的にはその投機家は破綻状態に陥る。当然ながら、借り手である投機家の債務超過状態への転落は、貸し手である金融機関にとっては貸出資産が不良化することを意味する。