2014年5月2日金曜日

市民の森

都市づくりのなかで緑をどう確保するかは、重大な問題である。人間は鉄とゴンクリートだけでは生きてゆけない。豊かな緑と、広大なオープンスペースは、都市で人間らしい生活をさせる要件である。欧米では、ニューヨークのセントラルパーク、ロンドンのバイトパーク、パリのブローニュの森などのように、広大な公園中森を都市の中に確保してきた。ドイツの都市は周辺に広大なシュクットヴァルト(都市森)をもち、休日には一日中散歩している市民、がいる。一人あたりの公園面積でも、ストックホルムの、八〇平方メートルは別としても、三〇平方メートルほどはざらにある。ところがわが国の都市では、一人あたり三、四平方メートルにすぎず、ちょうど一桁違っている。東京や横浜では、人口の増加が急激すぎたため、一人あたりの公園面積は、二平方メートルていどにすぎない。

これは、わが国の都市では、地価が異常に高いこと、国の補助金による以外に事業ができない自治体財源の貧しさ、自主性のなさ、そして国の公団緑地への補助金は、道路などに比べてあまりにも小さいこと、などがその理由としてあげられる。横浜市では、定型的な公園建設だけでなく、広い意味の緑やオープスペースの確保につとめてきた。大通公園の設置、緑の軸線、線引きによる調整区域確保、風致地区の拡大指定、宅地開発要綱による公園の義務化、都市長業による農業専川地区の設定、市街地環境設計制度、山手景観風致保全要綱など、さまざまである。さらに、「緑の環境をつくり育てる条例」を制定し、工場緑化や、公共施設の緑化などにつとめ、それなりの効果をあげてきた。

緑の確保問題は、なんといっても土地問題である。もちろん国の抜本的土地政策が必要だが、それまで待っていられない。しかし緑を買収する財政的余裕もない。そこで横浜市は、発想を転換し、市民の協力をえながら、市民との協同によって緑地や森林の確保をはかったのである。それは地主が土地を保有したままで、あるていどまとまった山林を複数の地主と市が協定を結び、市民に解放する。散歩道やベンチなどをつけて、市民が静かな山林の中を散策できる。地主には、固定資産税等、相当額を奨励金として交付している。管理運営も地元主体で、地主や地元市民によって運営委員会を組織し、市からは管理委託料を交付している。

この制度は、市行政側かひとつの筋道をつくったのであるが、市民の協力と、市民団体の手による自主的管理によって成り立っているものであり。市民主体で造り育てた森ということができるだろう。昭和五五年現在で、二五二ヘクタールあり、これは同じ時期の都市公園五三一ヘクタールの七割近い面積を有し、とぼしい横浜市の都市公園の不足を賄っている。このような発想はこれまでのような建設省の指令のもとで、定められた小さな補助金をうけながら公園を設置し、管理していた市の公園部の発想のなかにはなかった。それは法令と予算のなかに閉じこめられていたからである。ところが横浜市は、昭和四六年に。全国でも初めての緑政局を発足させ、緑政局の手で新しい発想が次々に展開したのである。