お産の専門家が産科医で、男性が大部分という現実は、次のような出産の現状をも作り出している。まず、出産に関連してよく研究されている分野は、女性の不妊治療を目的とした生殖技術だ不妊治療ではないが、一九八六年に飯塚理八氏たちが「男女の産み分け法」を開発した時、私は医師たちの生殖技術開発競争に危惧を持つ友人だちと、「自然の力に任せなければならない分野」に人間が手を入れることの不安と、」定の倫理的歯しにめの必要性を、興奮しながら議論し合ったのをおぼえている。しかしその後、歯削めどころか、女性の身体を研究材料とした不妊治療開発競争はどんどん拡人している。
二十数年前、同氏たちによって盛んに行なわれ、テレビドラマにも登場した、AIDなど人工授精は、今ではも立不妊治療のイロハだ。その後、排卵誘発剤の研究開発による多胎妊娠、体外受精、さらにその受精卵を冷凍保存し、適宣解凍してかえし、妊娠出産に成功など、様々なことが進行している。「こんなことまで人間が闘発していいのだろうか」と危惧したとおり、どんどん女性の身体への自然破壊が進んでいる。
これを福音と考えるか、破壊と考えるかは、何を第一義と考えるかによって決まるだろう。しかし私はどのような状態の女性であれ、その女性の人生は、その女性にとってかけがえのないものであり、その入らしく人生を充実させること、それが何にも勝る大切なことだと考える。若い未婚者の「不妊」イメージ女性は、明治以後の富国強兵という国策のため、必要以上に強められた「家」の意識を、戦後もそのままひきずっている人の多い日本では、とくに苫しい立場を強いられている。ある時、若い人たちがどんな未来を描いているか聞いてみた。
男子学生では二三名中、「結婚している」と明記した者一三名、さらにそのうち「子どもがいる」と考えた者一一名。女子学生は一〇〇名だったが、同じく「結婚している」者は九二名、「子どもがいる」者はそのうち八五名にのぼっている。結果をみて驚いた。若くて「家」意識などにこだわっていないようにみえる未婚の男女学生たちが、こんなにも強く、正統な大人は既婚者でなければならないとイメージしているとは。さらに大多数が、結婚と父や母になることとを同一視し、子どものいる家庭生活を「平凡な生活」とか「子どもたちのために外国で」(以上男子学生)などと想像し、あるいは「平凡だが明るい家庭」とか「忙しいが充実した毎日」とイメージしている。
そしてこのように、彼らは子どものいる家庭生活を「明るい、充実した、当たり前」のものとみなし、子どもを中心として家庭が運営されることをほとんど疑っていないのである。若者さえこうなのだから、「家」主体の家族観を強固に身につけた義父母に囲まれた現代の不妊女性たちが、どのくらい強い苦しみを受けているか想像に難くないものと思う。
私は一〇年ほど前テレビで、不妊女性たちが苦痛のともなう不妊治療を受けながら、排卵誘発剤を投与され、その後ただひたすら排卵日の人工授精にそなえて入院している姿をみて、涙を禁じえなかった。ひどい苦痛と多額の出費、それに計り知れないほどの時間を、ただ子作りのためだけに費やす女性たち。こんな「卵をうむことだけを強要されるメンドリのような人生」になぜ女性たちが追い立てられたり、あるいは自分を追い込んでいくのだろうか。
2012年9月26日水曜日
オスカー・ワイルドの一節
現代の若者たちの会話には「エサを食べるような気持でパンを胃に流し込む」という言い方がよく登場します。確かに、何かに追われるように、エサを食うがごとく食事を摂り、夜はただ「ねるだけ」の機能しか果さない住居にもどって体力を回復する日々を体験すると、「生存している」という表現に真実味を感じます。そして、つい最近でも、「人を荷物のように押し込んで動くだけの機能しか果さない交通機関」が日本では支配的です。
しかし、その日本でも一九八〇年代後半から「文化の時代」という流行語が急浮上してきて、あらゆる財やサービスの販売や提供のなかに「文化志向型」とか「高付加価値化」とかが唱えられ始め、これに伴って「企業の文化イメージ」が強調されるようになりました。
現在、日本企業はコーポレイトーアイデンティティを主張し、新入社員の募集パンフレットの見開きにも、音楽家がニッコリ笑って語りかけています。このような状況が続きますと、各社は役員のなかに文化部長を置き、マーケティング、新規採用からフィランソロピー(社会への貢献として文化事業などへ寄付すること)に至るまで首尾一貫した文化戦略を展開し、「我が社の文化イメージ」をつくりだしてゆくことでしょう。今では「企業文化」という用語さえ、ごく普通に人々の話題に上るようになりました。
そして、また、ワイルドの言う生活という言葉が、企業の「文化志向」に対応する形をとりながら、雑誌や商品や住宅サービスの名称を通じて急速に普及していったのです。ライフには生命という意味と生活という意味がありますが、この言葉のもつイメージはワイルドが「生存している人」とは区別していた「生活している人」をクローズーアップせずにはおきませんでした。
現代の「生活している人」とは、より多くの金銭を獲得するために単に生存しているだけではなくて「ライフ、つまり、いのちとくらしを充実させようとしている人」すなわち「いきがいを求める人」としての「人間の顔」を連想させます。そうすると企業も消費者も政府や自治体も「モノやカネ」よりも「人間のココロ」に触れるような生産や消費や行政を考えざるを得なくなってきました。文化経済、文化財政、文化政策などに大きな関心が寄せられたのも当然ではないでしょうか。
しかし、その日本でも一九八〇年代後半から「文化の時代」という流行語が急浮上してきて、あらゆる財やサービスの販売や提供のなかに「文化志向型」とか「高付加価値化」とかが唱えられ始め、これに伴って「企業の文化イメージ」が強調されるようになりました。
現在、日本企業はコーポレイトーアイデンティティを主張し、新入社員の募集パンフレットの見開きにも、音楽家がニッコリ笑って語りかけています。このような状況が続きますと、各社は役員のなかに文化部長を置き、マーケティング、新規採用からフィランソロピー(社会への貢献として文化事業などへ寄付すること)に至るまで首尾一貫した文化戦略を展開し、「我が社の文化イメージ」をつくりだしてゆくことでしょう。今では「企業文化」という用語さえ、ごく普通に人々の話題に上るようになりました。
そして、また、ワイルドの言う生活という言葉が、企業の「文化志向」に対応する形をとりながら、雑誌や商品や住宅サービスの名称を通じて急速に普及していったのです。ライフには生命という意味と生活という意味がありますが、この言葉のもつイメージはワイルドが「生存している人」とは区別していた「生活している人」をクローズーアップせずにはおきませんでした。
現代の「生活している人」とは、より多くの金銭を獲得するために単に生存しているだけではなくて「ライフ、つまり、いのちとくらしを充実させようとしている人」すなわち「いきがいを求める人」としての「人間の顔」を連想させます。そうすると企業も消費者も政府や自治体も「モノやカネ」よりも「人間のココロ」に触れるような生産や消費や行政を考えざるを得なくなってきました。文化経済、文化財政、文化政策などに大きな関心が寄せられたのも当然ではないでしょうか。
2012年8月23日木曜日
工作員逮捕と中朝関係悪化
一九九九年四月、北京に駐在する北朝鮮の大物工作員「リー・チョルス」が家族と共に亡命した。北朝鮮の指導部には、なぜ彼が亡命を決断したのか理解できなかった。金正日総書記が、最も信頼していた工作員の一人であった。多くの秘密を知る人物である。
この大物工作員の行方は、いまも判明していない。北朝鮮当局は一時、逃亡直前に彼が米国大使館と携帯電話で連絡を取っていたことから、米国に亡命したとも考えた。
ところが北朝鮮は、最近になって中国が「リー・チョルス」を保護していると確信するようになった。一九九九年秋頃から中国に駐在する北朝鮮の幹部級工作員およそ二〇人が、中国の公安当局に次々と逮捕されたのだ。長い中朝の関係では、お互いに工作員を追放することはあっても、逮捕することはなかった。
逃亡した「リー・チョルス」を中国が保護し、その供述から北朝鮮の工作員を逮捕しているのは間違いなかった。ところが、中国は北朝鮮の「捜索と身柄引き渡し」要請に応じないどころか、「中国としても発見できないでいる」と答えるばかりであった。
中国政府当局者によると、二〇〇〇年三月五日に金正日総書記が平壌の中国大使館を突然訪問した。これは、金正日総書記がこうした中国側の態度に怒ったための行動であったという。金正日総書記は中国大使に「このままでは、中朝の関係は普通の国の関係になってしまう。古い友誼と友好関係を壊すつもりなら、北朝鮮にも考えがある」と伝えたという。この中国大使館訪問に、金正日総書記は軍の首脳全員を伴った。これは、軍事的な手段を使っても逮捕された工作員を救出するという意思表示になる。この結果、中国側は逮捕した工作員全員を釈放したという。
この工作員逮捕が、金正日総書記に大きな衝撃を与えたのは間違いない。北朝鮮が強く求めている逃亡工作員を引き渡さないばかりか、新たに工作員を逮捕したのである。中国は信頼できないばかりか、やはり北朝鮮を見捨てるのではないかとの思いが募るのは当然であった。
金正日総書記はおよそ七時間中国大使館に滞在し、中国首脳からの回答を待った。中国側は「中朝の友好に変わりはない」とのメッセージを伝え、およそ二〇人の幹部級工作員を釈放した。だが、中国側は「中朝同盟」の言葉は避けたという。
この中朝関係の悪化が、金正日総書記に南北首脳会談を決意させたと思われる。これまでの南北対話のセオリーから判断すると、こうした仮説が導きだせる。北朝鮮は、自らが国際的に厳しい立場に立だされている事実を韓国には覚られないようにしながら、首脳会談を実現したのである。
中朝関係の悪化を物語るエピソードがある。南北首脳会談のための韓国と北朝鮮の秘密交渉は、北京と上海で行われた。ところが、北朝鮮は公式発表まで中国に首脳会談の合意を伝えなかったのである。この事実は、中国外務省の高官が確認した。日本の外務省も、中国側からこうした事実を知らされたという。中国の関係者によると、中国が首脳会談を公式に知らされたのは韓国からの通告によってであった。
この大物工作員の行方は、いまも判明していない。北朝鮮当局は一時、逃亡直前に彼が米国大使館と携帯電話で連絡を取っていたことから、米国に亡命したとも考えた。
ところが北朝鮮は、最近になって中国が「リー・チョルス」を保護していると確信するようになった。一九九九年秋頃から中国に駐在する北朝鮮の幹部級工作員およそ二〇人が、中国の公安当局に次々と逮捕されたのだ。長い中朝の関係では、お互いに工作員を追放することはあっても、逮捕することはなかった。
逃亡した「リー・チョルス」を中国が保護し、その供述から北朝鮮の工作員を逮捕しているのは間違いなかった。ところが、中国は北朝鮮の「捜索と身柄引き渡し」要請に応じないどころか、「中国としても発見できないでいる」と答えるばかりであった。
中国政府当局者によると、二〇〇〇年三月五日に金正日総書記が平壌の中国大使館を突然訪問した。これは、金正日総書記がこうした中国側の態度に怒ったための行動であったという。金正日総書記は中国大使に「このままでは、中朝の関係は普通の国の関係になってしまう。古い友誼と友好関係を壊すつもりなら、北朝鮮にも考えがある」と伝えたという。この中国大使館訪問に、金正日総書記は軍の首脳全員を伴った。これは、軍事的な手段を使っても逮捕された工作員を救出するという意思表示になる。この結果、中国側は逮捕した工作員全員を釈放したという。
この工作員逮捕が、金正日総書記に大きな衝撃を与えたのは間違いない。北朝鮮が強く求めている逃亡工作員を引き渡さないばかりか、新たに工作員を逮捕したのである。中国は信頼できないばかりか、やはり北朝鮮を見捨てるのではないかとの思いが募るのは当然であった。
金正日総書記はおよそ七時間中国大使館に滞在し、中国首脳からの回答を待った。中国側は「中朝の友好に変わりはない」とのメッセージを伝え、およそ二〇人の幹部級工作員を釈放した。だが、中国側は「中朝同盟」の言葉は避けたという。
この中朝関係の悪化が、金正日総書記に南北首脳会談を決意させたと思われる。これまでの南北対話のセオリーから判断すると、こうした仮説が導きだせる。北朝鮮は、自らが国際的に厳しい立場に立だされている事実を韓国には覚られないようにしながら、首脳会談を実現したのである。
中朝関係の悪化を物語るエピソードがある。南北首脳会談のための韓国と北朝鮮の秘密交渉は、北京と上海で行われた。ところが、北朝鮮は公式発表まで中国に首脳会談の合意を伝えなかったのである。この事実は、中国外務省の高官が確認した。日本の外務省も、中国側からこうした事実を知らされたという。中国の関係者によると、中国が首脳会談を公式に知らされたのは韓国からの通告によってであった。
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